生物学者が語る芸術『芸術と科学のあいだ』
美術関係の書籍といえば、だいたいがアーティストか評論家、研究家、ギャラリストなどが執筆したものがほとんどですが、『芸術と科学のあいだ』の著者はめずらしいことに生物学者。
しかも著者は私の好きな福岡伸一。
大学の頃から彼の著書を読んでおり、『生物と無生物の間』や『世界は分けてもわからない』、『ルリボシカミキリの青』は実家の本棚に大事にとってあります。そんな福岡伸一が芸術について書いた本なので読まないわけにはいかないよね、と手に取りました。
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ジャンルを問わずいろいろ
もともと新聞にコラムで連載されていたものを書籍化したものなので、ひとつの作品に対して3、4ページ程と短く、紹介されている作品も多岐にわたります。
例えば…
- 縄文土器
- 金印『漢委奴国王印』
- フィルメール『牛乳を注ぐ女』
- 葛飾北斎の男波、女波
- 高山辰雄『牡丹 洛陽の朝』
- 千住博『ウォーターフォール』
- 修復に失敗した?スペインの教会のフレスコ画
その他の作品もいろいろ。
きっと興味のある作品が見つかるかと思います。
私としては北斎の『男波図』『女波図』を実際に見てみたいところですが、長野の美術館の所蔵ということで、ちょっと遠いですね。
自然を写し取る
学者先生ですから、さぞお堅い文章を書かれるのでしょうねと思われるかもしれませんが、文章が巧みで穏やかに語られていきます。
古来、おそらく私たちはしばし立ち止まって自然を眺め、耳を澄ませた。あるいは空を見上げた。そして、そこに密かなシンボルを読み取り、豊かなイメージを喚起された。詩は言葉の中にあるのではなく、自然の中にある。アートはキャンバスの中から生まれるのではなく、キャンバスに差し込む光の中にあらかじめ含まれている。
ん~、素敵。
古来より行われた自然の造形を写し取ろうとする行為自体は、ただそこにあったものを真似ようとしただけかもしれないし、何か祈りに似たことかもしれません。
今では科学的に、生物学的に解明された事象も、大昔の人々からすれば超自然的なもの。
自然の造形を写し取ることでその超自然的なエネルギーに触れようとしていたのかもしれませんね。
確かに今の我々にも自然を写し取ろうとする欲求が存在し、現に私もこうして植物の造形や葉と葉が重なりでできる空間、余白の妙に魅入られた絵描きの一人です。
自然へのアプローチ
美術作品だけではなく生物学者らしくDNAや染色体、昆虫や動物、自然現象についての芸術に通ずる造形美にも言及されています。
この本を読んで、学生時代に受講した生物学の授業を思い出しました。
なぜ花はこのような形をして、この時期に咲くのか。そこには必ず理由があり、必然があり、仕組みがあると。
そこには自然界の巧みなメカニズムと言ったらいいのでしょうか。うまくできているものなのだと感動して授業を聞いていたことを思い出します。
化学や生物学というと「理系」に分類され、芸術というと「文系」と学校の授業ではジャンルがざっくりと区切られてしまいますが、芸術も化学も分野は違えど、決して相いれないものではなく、違うプロセスで自然や生命というものに対するアプローチをしているのだと思っています。
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